0086 Picturesque views of the city of Paris and its environs

書評:『幕末維新パリ見聞記成島柳北「航西日乗」・栗本鋤雲「暁窓追録」『東京人』 2月号 February 2010 No.277

鹿島茂先生の蔵書紹介
0086 Picturesque views of the city of Paris and its environs ; vol.I, II / Frederick Nash (5)



19世紀前半、王政復古期、制限選挙時代のパリ、オスマン改修以前、パリ・コミューン以前の風景を確認することのできる文献である。この作品の見どころは、対象である建物、建造物だけでなく、フランス人の手になる作品では省略されてしまう周りの風景、人、空、植物などがイラストに描かれている点である。

当時のパリの風俗を知るには、外国人の手になる記録(文章・図版)を探すに限る。記念碑的なものでれば、パリに住むフランス人も記録しているが、なんと言うこともない日常的な風景の記録は少ないからだ。この意味で、荒俣宏が紹介したルドルフ・アッカーマンの景観図シリーズも優れたものである。

この作品はイギリスで刊行されたもので、フランス大革命期からナポレオン帝政期になかなか旅行することができず、その分、その後で高まったフランス観光熱に応えるものとして準備された「土産物 スーベニール」的なものといえる。『タブロー・ド・パリ』ギョーム・ベルティエ・ド・ソヴィニー、藤原書店)も当時のパリ観光熱の高さを知らしめるものだ。

空模様などはターナー風ともいえ、こうしたところに英仏の銅版画の違いがある。オスマン改修以前、パリ・コミューン以前の風景の例としては、Fontaine Châteletや、改修後ガス灯に変ることになる吊ランタンなどが見えるのが面白い。